ちぼう》であるが、葬式や婚礼のときだけ山高帽をかぶるのであった、ほていさんのようにふとってほおがたれてあごが二重にも三重にもなっている、その胸のところにはくまのような毛が生えている、光一は子どものときにいつも伯父さんにだかれて胸の毛をひっぱったものだ。
「伯父さんどこへいってきたの」と光一はきいた。
「ああ光一か、おれは今町会|傍聴《ぼうちょう》にいってきた、おもしろいぞ、うむ畜生《ちくしょう》! おもしろいぞ、畜生め、うむ畜生」
 おもしろいのに畜生よばわりは光一に合点《がてん》がゆかなかった。
「なにがおもしろいの?」
「なにがっておまえ、くそッ」伯父さんはひどく興奮《こうふん》していた。
「どろぼうめが、畜生」
「どろぼうがいたの?」
「どろぼうじゃねえか、一部の議員と阪井とがぐるになって、道路の修繕費をごまかして選挙費用に使用しやがった、それをおまえ大庭《おおば》さんがギュウギュウ質問したもんだから、困りやがって休憩《きゅうけい》にしやがった、さあおもしろい、お父さんがいるか」
「ぼくはいま学校の帰りですから知らない」
「知らない? ばかッ、そんならそうとなぜ早くいわないのだ、
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