そんな風じゃ出世しないぞ」
 伯父さんはぶりぶりして足を急がせたが、なにしろふとってるので頭と背中がゆれる割合《わりあい》に一向《いっこう》足がはかどらなかった。
 そういう政党の争いは光一にとってなんの興味もなかった、かれが家へはいると、もう伯父さんの大きな声が聞こえていた。
「どろぼうのやつめ、畜生ッ、さあおもしろいぞ」
 父はげらげらわらっていた、母もわらっていた、伯父さんが憤慨すればするほど女中達や店の者共に滑稽《こっけい》に聞こえた。伯父さんはそそっかしいのが有名で、光一の家へくるたびに帽子を忘れるとか、げたをはきちがえるとか、ただしはなにかだまって持ってゆくとかするのである。
 光一は父と語るひまがなかった、父は伯父さんと共に外出して夜|晩《おそ》く帰った、光一は床《とこ》にはいってから校長のことばかりを考えた。
「停学された復讐《ふくしゅう》として阪井の父は校長を追いだすのだ」
 こう思うとはてしなく涙がこぼれた。
 翌日学校へいくとなにごともなかった、正午の食事がすむと委員が校長に面会をこう手筈《てはず》になっている。
「堂々とやるんだぞ、われわれの血と涙をもってやるん
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