忠告したのです、それにかかわらずかれの父はかれを厳重にいましめないのです、これだけに手を尽くしても改悛《かいしゅん》せず、その悪風を全校におよぼすのを見ると、いまは断固たる処置をとらなきゃならない場合だと思います。しかしながら諸君、しかしながら……」
校長の語気は次第に熱してきた。
「キリストの言葉に九十九のひつじをさしおいても一頭の迷える羊《ひつじ》を救えというのがあります、あれだけ悪い家庭に育ってあれだけ悪いことをする阪井は憎《にく》いにちがいないが、それだけになおかわいそうじゃありませんか、あんな悪いことを働いてそれが悪いことだと知らずにいる阪井巌をだれが救うてくれるでしょうか、善良なひつじは手をかけずとも善良に育つが、悪いひつじを善良にするのはひつじかいの義務ではありますまいか、いまここで退校にされればかれは不良少年としてふたたび正しき学校へ行くことができなくなり、ますます自暴自棄《じぼうじき》になります、そうすると、ひとりの男をみすみす堕落《だらく》させるようなものです、救い得る道があるなら救うてやりたいですな」
「いかにもなア」
感嘆《かんたん》の声が起こった、人々は校
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