て喧嘩をするが、ものの理屈がわからないほうでもない、無論今度のことは等閑《とうかん》に付《ふ》すべからざることですが、退校は少しく酷《こく》にすぎはしますまいか」
「いや、あいつは破廉恥罪《はれんちざい》をおかして平気でいます、人の畑のいもを掘る、駄菓子屋《だがしや》の菓子をかっぱらう、ついこのごろ豆腐屋の折詰《おりづめ》を強奪《ごうだつ》してそのために豆腐屋の親父《おやじ》が復讐《ふくしゅう》をして牢獄《ろうごく》に投ぜられた始末、私がいくども訓戒したがききません、かれのために全校の気風が悪化してきました、雑草を刈《か》り取らなければ他の優秀な草が生長をさまたげられます、これはなんとかして断固《だんこ》たる処分にでなければなりますまい、いかがですか校長」
朝井先生がこういったとき、一同の目が校長に注がれた。校長は先刻から黙然として一言もいわずにまなこを閉《と》じていたがこのときようやくまなこをみひらいた。涙が睫毛《まつげ》を伝うてテーブルにぽたりぽたりこぼれた。
「わかりました、諸君のいうところがよくわかりました、実は私はこのことあるを憂《うれ》いて、前後五回ほど阪井の父をたずねて
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