こう》だ」と阪井は急にあらたまっていった。
「なぜだ」
「ばかやろう! おれは人につばを吐《は》きかけられたらそやつを殺してしまわなきゃ承知しないんだ、つばを吐きかけられたとあっては阪井は世間へ顔出しができない、うそもいい加減《かげん》に言えよばかッ」
阪井はずんずん急ぎ足で去った、手塚はうらめしそうにその方を見やった。
「どっちがばかか、おれがしょうじきに白状《はくじょう》したのも知らないで……いまに見ろ退校させれるから」
かれはこうひとりでいって角《かど》を曲がった。
「だが先生達の顔色で見ると、柳の方へつく方が利益だ、そうだ、柳の見舞いにいってやろう」
学校では職員会議がたけなわであった。阪井の乱暴については何人《なんぴと》も平素|憤慨《ふんがい》していることである。人々は口をそろえて阪井を退校に処《しょ》すべき旨《むね》を主張した。
「試験の答案に、援軍きたらず零敗すと書くなんて、こんな乱暴な話はありません」と幾何学《きかがく》の先生がいった。
「しかし」と漢学の先生がいった、「阪井は乱暴だがきわめて純な点があります、うそをつかない、手塚のように小細工をしない、おだてられ
前へ
次へ
全283ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング