が広く顔は四角でどろのごとく黒いが、大きな目はセンターからでもマスクをとおしてみえるので有名である、だれかがかれを評して馬のような目だといったとき、かれはそうじゃない、おれの目は古今東西の書を読みつくしたからこんなに大きくなったのだといった。
 身体《からだ》が大きくて腕力もあるが人と争うたことはないので何人《なにびと》もかれと親しんだ、木馬の上に立ったかれを見たとき、人々は鳴りをしずめた。小原の黒い顔は朱《しゅ》のごとく赤かった、かれは両手を高くあげてふたたび叫んだ。
「諸君は校長を信ずるか」
「信ずる」と一同が叫んだ。
「生徒の賞罰《しょうばつ》は校長の権利である、われわれは校長に一任して可《か》なりだ、静粛《せいしゅく》に静粛にわれわれは決してさわいではいかん」
「賛成賛成」の声が四方から起こった。狂瀾《きょうらん》のごとき公憤《こうふん》の波はおさまって一同はぞろぞろ家へ帰った。
 そのとき職員室では秘密な取り調べが行なわれた。職員達はどれもどれもにがい顔をしていた。当時その場にいあわせた重《おも》なる生徒が五、六人ひとりずつ職員室へよばれることになった。一番最初に呼ばれたのは
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