手塚であった、手塚はいつも阪井の保護を受けている、いつか三年と犬の喧嘩のときに阪井のおかげで勝利を占めた、かれはなんとかして阪井を助けてやりたい、そうして一層《いっそう》阪井に親しくしてもらおうと思った。
「柳の方から喧嘩をしかけたといえばそれでいい」
 かれはこう心に決めた、が職員室へはいるとかれは第一に厳粛《げんしゅく》な室内の空気におどろいた。中央に校長のまばらに白い頭と謹直《きんちょく》な顔が見えた、その左に背の高いつるのごとくやせた漢文の先生、それととなりあって例の英語の朝井先生、磊落《らいらく》な数学の先生、右側には身体のわりに大きな声をだす歴史の先生、人のよい図画の先生、一番おわりには扉口《とぐち》に近く体操の先生の少尉《しょうい》がひかえている。
「あとをしめて」と少尉がどなった。手塚はあわてて扉をしめた。
「阪井はどうして柳をうったのか」と少尉がいった。
「ぼくにはわかりません」
「わからんということがあるかッ」
 少尉はかみつくようにどなった。
「知ってるだけをいいたまえ」と朝井先生がおだやかにいった。
「幾何《きか》の答案をだして体操場へゆきますと柳がいました。そ
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