うふん》! 平素阪井の傲慢《ごうまん》や乱暴をにがにがしく思っていたかれらはこの際|徹底的《てっていてき》に懲罰《ちょうばつ》しようと思った。二時の放課になっても生徒はひとりも去らなかった。ものものしい気分が全校にみなぎった。
 なにごとか始まるだろうという期待の下に人々は校庭に集まった。
「諸君!」
 大きな声でもってどなったのはかつて阪井と喧嘩をした木俣ライオンであった。
「わが校のために不良少年を駆逐《くちく》しなければならん、かれは温厚なる柳を傷《きず》つけた、そうして」
「わかってる、わかってる」と叫ぶものがある。
「おまえも不良じゃないか」と叫ぶものがある。
 木俣はなにかいいつづけようとしたが頭を掻いて引込んだ。人々はどっとわらった。これを口切りとして二、三人の三年や四年の生徒があらわれた。
「校長に談判しよう」
「やれやれ」
「徹底的にやれ」
 少年の血潮は時々刻々に熱した。
「待てッ、諸君、待ちたまえ」
 五年生の小原《こはら》という青年は木馬の上に立って叫んだ。小原は平素|沈黙寡言《ちんもくかげん》、学力はさほどでないが、野球部の捕手として全校に信頼されている。肩幅
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