んとうばこ》をふりあげた。光一はあっと声をあげて目の上に手をあてた、眉と指とのあいだから血がたらたらと流れた。血を見た阪井はますます狂暴になっていすを両手につかんだ。
「よせよ、よせ、よせ」人々は総立ちになって阪井をとめた。
「あんなやつ、殺してしまうんだ、とめるな、そこ退け」
 阪井は上衣《うわぎ》を脱《ぬ》ぎ捨てて荒れまわった、このさわぎの最中に最敬礼のらっぱ卒がやってきた、かれは満身の力でもって阪井を後ろからはがいじめにした。「このやろう、今日《きょう》こそは承知ができねえぞ、さああばれるならあばれて見ろ、牙山《がざん》の腕前を知らしてやらあ」

         四

 阪井が柳を打擲《ちょうちゃく》して負傷させたということはすぐ全校にひびきわたった。上級の同情は一《いつ》に柳に集まった。
「阪井をなぐれなぐれ」
 声はすみからすみへと流れた。
「この機会に阪井を退校さすべし」
 この説は一番多かった。ある者は校長に談判しようといい、ある者は阪井の家へ襲撃《しゅうげき》しようといい、ある者は阪井をとらえて鉄棒《かなぼう》にさかさまにつるそうといった。憤激《ふんげき》! 興奮《こ
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