とである、それには全級の聯絡《れんらく》がやくそくせられ、甲《こう》から乙《おつ》へ、乙から丙《へい》へと答案を回送するのであった、もっと巧妙な作戦は、なにがしの分はなにがしが受け持つと、分担を定める。
 この場合にいつもぎせい者となるのは勉強家である。怠惰《たいだ》の一団が勉強家を脅迫《きょうはく》して答案の回送を負担せしめる。もし応じなければ鉄拳《てっけん》が頭に雨《あま》くだりする。大抵《たいてい》学課に勉強な者は腕力が弱く怠《なま》け者は強い。
 カンニングの連中にいつも脅迫されながら敢然《かんぜん》として応じなかったのは光一であった。もっともたくみなのは手塚であった。
 この日は幾何学《きかがく》の試験であった。朝のうちに手塚が光一のそばへきてささやいた。
「きみ、今日《きょう》だけ一つ生蕃を助けてやってくれたまえね」
「いやだ」と光一はいった。
「それじゃ生蕃がかわいそうだよ」
「仕方がないさ」
「一つでも二つでもいいからね」
「ぼくは自分の力でもって人を助けることは決していといはせんさ、だが、先生の目をぬすんでこそこそとやる気持ちがいやなんだ、悪いことでも公明正大にやるな
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