で大きな声でどなった。人々は一度に集まった。
「おれにくれ」
「おれにも」
 焼ける間も待たずに一同はメリケン粉を平らげてしまった。これが校中の大問題になった。じじいが横を向いてるすきをうかがって足を引いてさかさまにころばし、あっと悲鳴をあげてる間に屋台をがらがらとひいてきた阪井の早業《はやわざ》にはだれも感心した。
 わいわいなきながらじじいは学校へ訴《うった》えた。たい焼きを食ったものはわらって喝采《かっさい》した、食わないものは阪井の乱暴を非難した。だがそれはどういう風に始末をつけたかは何人《なんぴと》も知らなかった。
「阪井は罰を食うぞ」
 みながこううわさしあった、だが一向なんの沙汰《さた》もなかった。それはこうであった。阪井は校長室によばれた。
「屋台をひきずりこんだのはきみか」
「はい、そうです」
「なぜそんなことをしたか」
「たい焼き屋がきたためにみなが校則をおかすようになりますから、みなの誘惑《ゆうわく》を防ぐためにぼくがやりました」
「本当か」
「本当です」
「よしッ、わかった」
 阪井が室をでてから校長は歎息《たんそく》していった。
「阪井は悪いところもあるが、な
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