た。
「たい焼き買って、あめ買って、のらくらするのは浦中《うらちゅう》ちゅう、ちゅうちゅうちゅう、おやちゅうちゅうちゅう」
 妙な節でもってうたいだした。すると中学も応戦してうたった。
「官費じゃ食えめえ気の毒だ、あんこやるからおじぎしろ、たまには、たいでも食べてみろ」
 このさわぎを聞いた例のらっぱ卒は早速《さっそく》校長に報告した。校長はだまってそれを聞いていたがやがておごそかにいった。
「たい焼き屋に退却《たいきゃく》を命じろ」
 いかになることかとびくびくしていた生徒共は校長の措置《そち》にほっと安心した、たい焼き屋はすぐに退却した、だが哀《あわ》れなるたい焼き屋! 一時間のうちに数十のたいが飛ぶがごとく売れるような結構な場所はほかにあるべくもない。かれは翌日またもや屋台をひいてきた。それと見た校長は生徒を校庭に集めた。
「たい焼きを食うものは厳罰に処すべし」
 生徒は戦慄《せんりつ》した、とその日の昼飯時である。生徒はそれぞれに弁当を食いおわったころ、生蕃は屋台をがらがらと校庭にひきこんできた。
「さあみんなこい、たい焼きの大安売りだぞ」
 かれはメリケン粉を鉄の型に流しこん
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