あいこうぜ」とお美代はいせいよくいった。脚絆《きゃはん》をはいてたびはだしになり、しりばしょりをして頭にほおかむりをなしその上に伯父さんのまんじゅう笠《がさ》をかぶった母の支度《したく》を見たときチビ公は胸が一ぱいになった。
「らっぱはふけないから鈴《すず》にするよ」とお美代はわらっていった。
「じゃお先に」
 チビ公は荷をかついで家をでた、なんとなく戦場へでもでるような緊張した気持ちが五体にあふれた、かれは生まれてはじめて責任を感じた、いままでは寒いにつけ暑いにつけ商売を休みたいと思ったこともあった、また伯父さんにしかられるからしかたなしにでていったこともあった、しかしこの日は全然それと異《こと》なった一大革命《いちだいかくめい》が精神の上に稲妻《いなずま》のごとく起こった。
「おれがしっかりしなければみんなが困る」
 かれは警察にある伯父さんも伯母も母もやせ腕一本で養わねばならぬ大責任を感ずるとともに奔湍《ほんたん》のごとき勇気がいかなる困難をもうちくだいてやろうと決心させた。
 らっぱの音はほがらかにひびいた、かれは例のたんぼ道から町へはいろうとしたとき、今日《きょう》も生蕃が待
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