げやしません」
「豆腐《とうふ》をくれ」
「はい」
チビ公は不安そうに顔を見あげた。
「いかほど?」
「食えるだけ食うんだよ、おれは朝飯前に柔道のけいこをしてきたから腹がへってたまらない、焼き豆腐があるか」
「はい」
チビ公が蓋《ふた》をあけると巌はすぐ手をつっこんだ、それから焼き豆腐をつかみあげて皮ばかりぺろぺろと食べて中身を大地にすてた。
「皮はうまいな」
「そうですか」とチビ公はしかたなしにいった。
「もう一つ」
かれは三つの焼き豆腐の皮を食べおわって、ぬれた手をチビ公の頭でふいた。
「銭はこのつぎだよ」
「はい」
「用がないからゆけよ、おれはここで八百屋《やおや》の豊公《とよこう》を待っているんだ、あいつおれの犬に石をほうりやがったからここでいもをぶんどってやるんだ」
チビ公はやっと虎口をのがれて町へはいった、そうして悲しくらっぱをふいた。らっぱをふく口元に涙がはてしなくこぼれた。
どうしてあんなやつにこうまで侮辱《ぶじょく》されなきゃならないんだろう、あいつは学校でなんにもできないのだ、おやじが役場の助役だからいばってるんだ、金があるから中学校へゆける、親があるから
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