中学校へゆける。それなのにおれは金もない親もない。なぐられてもだまっていなきゃならない、生涯|豆腐《とうふ》をかついでらっぱをふかなきゃならない。
 かれの胸は憤怒《ふんぬ》に燃えた、かれはだまって歩きつづけた。
「おい豆腐屋、売るのか売らないのか、らっぱを落としたのか」
 職人風の男が二人、こういってわらってすぎた。チビ公はらっぱをふいた、その音はいかにも悲しそうにひびいた。町にはちらちら中学生が登校する姿が見えだした、それは大抵《たいてい》去年まで自分と同級の生徒であった。チビ公は鳥打帽のひさしを深くして通りすぎた。
「おはよう青木君」と明るい声がきこえた。
「お早う」とチビ公はふりかえっていった、声をかけたのは昔の学友|柳光一《やなぎこういち》という少年であった、柳は黒い制服をきちんと着て肩に草色の雑嚢《ざつのう》をかけ、手に長くまいた画用紙を持っていた。かれはいかなるときでもチビ公にあうとこう声をかける、かれは小学校にあるときにはいつもチビ公と席を争うていた、双方とも勉強家であるが、たがいにその学力をきそうていた、これといって親密にしたわけでもないが、光一の態度は昔もいまもかわ
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