でも身体《からだ》に生《なま》きずが絶えない、かれは小学校でチビ公と同級であった、小学校時代にはチビ公はいつも首席であったが巌は一度落第してきたにかかわらず末席であった。かれはいつもへびをふところに入れて友達をおどかしたり、女生徒を走らしたり、そうしておわりにはそれをさいて食うのであった。
「やい、おめえはできると思っていばってるんだろう、やい、このへびを食ってみろ」
かれはすべての者にこういってつっかかった、かれはいま中学校へ通っている、豆腐おけをかついだチビ公は彼を見ると遠くへさけていた、だがどうかするとかれは途中でばったりあうことがある。
「てめえはいつ見てもちいせえな、少し大きくしてやろうか」
かれはチビ公の両耳をつかんで、ぐっと上へ引きあげ、足が地上から五寸もはなれたところで、どしんと下へおろす。これにはチビ公もまったく閉口した。
かれが今町の入り口へさしかかると向こうから巌がやってきた、かれは頭に鉢巻《はちま》きをして柔道のけいこ着を着ていた。チビ公ははっ[#「はっ」に傍点]と思って小路《こうじ》にはいろうとすると巌がよびとめた。
「やいチビ、逃げるのかきさま」
「逃
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