代がいった。
「さしいれ物ってなあに?」
「警察へね、毛布だのお弁当だのを持っていくんだよ、警察だけですめばいいけれどもね」
「お母《かあ》さんが弁当をこさえてくれればぼくが持っていくよ」
「それがね、お金を弁当屋にはらって、さしいれしてもらうのでなきゃいけないんだよ」
「いくら?」
「一|遍《ぺん》の弁当は一番安いので二十五銭だろうね」
「三度なら七十五銭ですね」
「ああ」
「七十五銭!」
 七十五銭はチビ公ひとりが一日歩いてもうける分である、それをことごとく弁当代にしてしまえば三人がどうして食べてゆけよう。チビ公は当惑《とうわく》した。
「豆をひくにしても煮《に》るにしても、おまえの腕ではとてもできないし、私《わたし》の考えでは当分休むよりほかにしかたがないが、そうすると」
 お美代はしみじみといった。
「休みません、伯父さんのできることならぼくがやってみせます、ぼくのために助役をなぐった伯父さんに対してもぼくはるす中りっぱにやってみせます」
「でもさしいれ物はね」
「お母さん、ぼくの考えではね、お母さんもぼくと一緒《いっしょ》に豆腐《とうふ》を作って、それから伯父さんの回り場所を
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