るでしょう?」
「さあ」
 ふたりは思い思いの憂欝《ゆううつ》をいだいて家へ帰った、母は戸口に立ちどまって深い溜《た》め息《いき》をついた、かの女《じょ》は伯母《おば》のお仙《せん》をおそれているのである、伯父は親切だが伯母はなにかにつけて邪慳《じゃけん》である、たよるべき親類もない母子《おやこ》は、毎日伯母の顔色をうかがわねばならぬのであった。
 ふたりはようやく家へはいった、そうして伯母を起こして仔細《しさい》を語った。
「へん」と伯母は冷ややかにわらった。「なんてえばかな人だろう、この子がかわいいからって助役さんをなぐるなんて……明日《あす》から商売をどうするつもりだろう、どうしてご飯を食べてゆくつもりなの?」
 お仙は眠い目もすっかりさめて口ぎたなく良人《おっと》をののしった。
「商売はぼくがやります、伯母さん、そんなに伯父さんを悪くいわないでください」
 チビ公は決然とこういった。
「やれるならやってみるがいいや、おら知らないよ」
 お仙はふたたび寝床へもぐりこんだ、チビ公と母のお美代《みよ》は床へはいったがなかなか眠れない。
「なによりもね、さしいれ物をしなくちゃね」とお美
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