子どもの喧嘩にでしゃばって、相手の親をなぐるという法があるか」
 二、三人がどなった。
「あやまらないからなぐったんだ」
「ぐずぐずいわんと早く歩け」
「おれをどうするんだ」
 五、六人の人々が玄関口で押しあった。その中から伯父さんの半裸体《はんらたい》の姿があらわれた、伯父さんの顔はまっさおになってくちびるから血がしたたっていた、かれのやせた肩は呼吸の度ごとにはげしく動いた。
「さあでろ」と巡査《じゅんさ》がいった。
「はきものがない」と伯父さんがいった。
「そのままでいい」
「おれはけだものじゃねえ」
 だれかが外からぞうりを投げてやった、伯父さんはそれをはいた。
「伯父さん!」とチビ公は門内にかけこんでいった。
「おお千三か、おまえのかたきは討ってやったぞ、いいか明日《あす》から商売に出るときにはな、鉄砲となぎなたとわきざしとまさかりと七つ道具をしょってでろ、いいか、助役のせがれが強盗《ごうとう》にでても警察では豆腐屋を保護してくれないんだからな」
 こういった伯父さんの息は酒くさかった。
「歩け」と巡査がいった。
「待ってくださいおまわりさん」とチビ公は巡査の前にすわった。

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