だ》は小さいがおれの方が正しいんだ、伯父さんを助けてあげなきゃならない。
 かれは雨戸のしんばり棒をはずして手にさげた、それからじょうぶそうなぞうりにはきかえて外へでた、めざすところは阪井の家である、かれは今にも伯父が乱闘乱戦に火花をちらしているかのように思った、胸が高鳴りして身体《からだ》がふるえた。町に松月楼《しょうげつろう》という料理屋がある、その前にさしかかったときかれはただならぬ物音を聞いた。ひとりの男がはだしのまま、
「医者を医者を」と叫んで走った。すると他の男がまた同じことをいって走った。
「もしや伯父がここで……」とチビ公は直感した、とたんに暗がりから母が飛びだしてチビ公の肩にもたれた。
「大変だよ千三《せんぞう》、伯父さんが……」
 母はなかばなき声であった。ばらばらと玄関《げんかん》に五、六人の影があらわれた。
「悪いやつをなぐるのはあたりまえだ、おれの家の小僧《こぞう》をおどかして毎朝|豆腐《とうふ》を強奪《ごうだつ》しやがる、おれは貧乏人《びんぼうにん》だ、貧乏人のものをぬすんでも助役の息子《むすこ》ならかまわないというのか」
 たしかに伯父さんの声である。

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