公はあがりかまちに腰をかけて伯父と母の帰りを待っていた。伯母さんは昼の中は口やかましいにかかわらず夜になるとまったく意気地《いくじ》がなくなって眠ってしまうので起こしたところで起きそうにもない。豆腐屋《とうふや》は未明に起きねばならぬ商売だ、チビ公は昼の疲れにうとうとと眠くなった。
「眠っちゃいけねえ」とかれは自分をしかりつけた、がいったん襲《おそ》いきたった睡魔《すいま》はなかなかしりぞかない、ぐらりぐらりと左右に首を動かしたかと思うと障子に頭をこつんと打った、はっと目をさまして庭へ出て顔を洗った、月はポプラの枝々をもれて青白い光を戸板や石うすやこもや水槽《みずおけ》に落とすと、それらの影がまざまざと生きたようにういてくる。チビ公は口笛をふいた。
時計は十時を打った。
「伯父さんが喧嘩をしてるんじゃなかろうか、もしそうだとすると」
チビ公はこう考えたとき少年の血潮《ちしお》が五体になりひびいた。
「阪井の家へいったにちがいない、だが阪井の親父は助役だ、子分が大勢だ、伯父さんひとりではとてもかなわないだろう、そうすると……」
かれはもうだまっていることができなくなった、身体《から
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