した。
「千三《せんぞう》か」
石うすの音がやんだ。そうして戸をあけるとともに伯父《おじ》の首だけが外へ出た。
「なにをしてるんだ千三」
チビ公はだまっている。
「おい、ないてるのか」
伯父は手をひいて家へいれた。母は心配そうにこのありさまを見ていた、伯母《おば》はすでに寝てしまったらしい。
「どうしたんだ」
「伯父さんにあげようと思ってぼくは……」
チビ公はとぎれとぎれに仔細《しさい》を語った。
「まあ着物はやぶけて、はかまはどろだらけに……」
と母も悲憤《ひふん》の涙にくれていった。
「助役の子だね、阪井の子だね、よしッ」
伯父の顔はまっかになったかと思うとすぐまっさおになった。かれは水槽《みずおけ》の縁《へり》にのせたてぬぐいを、ふところに押しこんで家を飛びだした。
「伯父さんをとめて」と母が叫んだ。チビ公はすぐ外へ飛びだした。
「だいじょうぶだ、心配すな、みんな寝てもいいよ」
伯父さんは走りながらこういった。
「待っておいで」
母はこういってぞうりをひっかけて伯父のあとを追うた。チビ公は茶の間へあがって時計《とけい》を見た、それは九時を打ったばかりであった。チビ
前へ
次へ
全283ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング