くないかよ」
 生蕃は豊公から掠奪したたいの尾をつかんで胴のところをむしゃむしゃ食べながらいった。
「阪井君、ぼくは毎朝きみに豆腐《とうふ》を食われてもなんともいわなかった、これだけは堪忍《かんにん》してくれたまえ、きみは豊公のを食べたならそれでいいじゃないか」
「きさまは豊公をぎせいにして自分の義務をのがれようというのか」
「義務だって? ぼくはなにもきみにさかなをやる義務はないよ」
「やい小僧《こぞう》、こらッ、三年のライオンを退治《たいじ》した生蕃を知らないか、よしッ」
 生蕃の手が早くもチビ公のふところにはいった。
「いやだいやだぼくは死んでもいやだ」
 チビ公は両腕を組んでふところを守った。
「えい、面倒だ」
 生蕃はずるずると折り箱をひきだした、チビ公は必死になって争うた。一は伯父《おじ》を喜ばせようという一心にのぼせつめている、一はわが腹をみたそうという欲望に気狂《きぐる》わしくなっている。大兵《だいひょう》とチビ公、無論敵し得《う》べくもない、生蕃はチビ公の横面をぴしゃりとなぐった、なぐられながらチビ公はてぬぐいの端《はし》をにぎってはなさない。
「えいッ」
 声ととも
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