キーである。イタリーはデモクラシーを廃してムッソリーニを英雄として崇拝している、英雄主義は永遠にほろびるものでない、英雄のなき国は国でない、宇宙に真理があるごとく人間に英雄があるものである、いたずらに英雄を無視せんとするものは自ら英雄たるあたわざる者の絶望の嫉妬《しっと》である」
「そうだそうだ」と彰義隊《しょうぎたい》は頭に鉢巻きをしておどりあがった。「おれのいいたいことをみんないってくれた」
 人々は野淵の荘重《そうちょう》な漢文口調の演説を旧式だと思いつつもその熱烈な声に魅《み》せられて、狂するがごとく喝采した、手塚はきまりわるそうに頭を垂れた。実をいうとかれの論旨はある社会主義の同人雑誌から盗んだものなので、その新しそうに見えるところがすこぶる気にいったのであった。かれはこの演説で大いに「新人《しんじん》」ぶりを見せびらかすつもりであったが、野淵に一蹴《いっしゅう》されたのでたまらなく羞恥《しゅうち》を感じた。そうして救いを求むるように光一の方を見やった。
 光一はだまって演壇の方へ歩いた。人々はさかんに拍手した。光一は平素あまり議論をこのまなかった。かれは自分でも演説はへただ
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