と思っている。だがみなのすすめをこばむことはできなかった。かれは演壇にのぼったとき胸が波のごとくおどった。そうして自分ながら顔がまっかになったことを感じた。だがそれを制することもできなかった。かれは躊躇《ちゅうちょ》した。それはさながら群がるとらの前にでた羊《ひつじ》のごとく弱々しい態度であった。
千三はじっと目をすえて光一をにらんでいた。
「畜生! あいつなにをいやがるだろう、へんなことをいったらめちゃめちゃに攻撃していつかの復讐《ふくしゅう》をし、満座の前で恥《はじ》をかかしてやろう」
おそらく当夜の会場で千三ほど深い注意をもって光一の演説を聴いていたものはなかったろう。
一方において手塚はほっと息をついた。救いの船がきたのである。師範の野淵をやっつけてくれるだろう。
「ぼくは演説がへたですからよくしゃべれません」
いかにもおずおずした調子でしかも低い活気のない声で光一はいった。
「へたなやつだなあ」と千三は肚《はら》の中でいった。
「ふだんにいくらいばっても晴れの場所では物がいえないだろう、へそに力がないからだ」
会衆もまた光一が案外へたなのに失望した。
「しかしぼくは
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