宮の境内《けいだい》はしんとして人の音もない。風が出て松のこずえをさらさらと鳴らした。こまかい葉の影のところどころに春の日がこぼれたように大地に光っている。光一はお堂の前にでた。そこの桜《さくら》の下に千三が立っている。光一は赫《かっ》とした。かれは野猪《のじし》のごとく突進した。
「おい、チビ!」とかれは叫んだ。千三はおどろいて顔をあげた。かれはいま石獅子《いしじし》の写生をしていたのであった。
「やい、きさまはおれをだましたな、きさまはおれの妹をきさまは……きさまは……」
 あまりにせきこんだので光一の声が喉《のど》につまった。千三はあきれて目をきょろきょろさせた。かれは光一がいたずらにこんなことをいってるのだと思った。
「やい、きさまはここでなにをしてるんだ」
「ぼくは高麗《こま》犬の写生をしてるんだよ、どうもね、一つの方が口をあいて一つの方が口をしめてるのがふしぎでならねえ」と千三はいった。
「なにがふしぎだ、きさまがここにいる方がよっぽどふしぎだ、ばかやろう!」
「きみは本当にそんなことをいってるのか」と千三は改まった。
「あたりまえだ、きさまはおれの妹を誘惑したろう」
「ぼ
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