大きな松の下で人影を見た。

         十二

 わが妹を誘惑《ゆうわく》して堕落《だらく》の境《さかい》にひきこもうとしつつあるチビ公をさがしまわった光一がいま松の下陰で見たのはたしかに妹文子の片袖《かたそで》とえび茶のはかまである。
「ひとりだろうか、ふたりだろうか」
 かれにはそれがわからなかった。十|幾本《いくほん》となく並んだ松と松との間はせまい。
「どうしてこんなところへ来てるんだろう、多分チビと一緒だろう」
 光一はこう考えた、だが急にふたりの前へ出たらふたりはおどろいて逃げるかもしれない。かれはこう思ってしずかに足をしのばした。と突然《とつぜん》横合いの松かげから口笛が起こった。と思う間もなく石のつぶてが四方から飛んできた。
「だれだ」と光一は背後を向いていった。が人の姿は見えない。菜の花畑の間や肥料小屋の間からさかんにつぶてが飛んでくる。
「卑劣なやつだ、でてこい」
 かれはこういいながら八方を睨《にら》んだ。そうしてふたたび文子の方を見やると文子の姿はもう見えない。
「しまった、どこへ逃げたろう」
 かれは血眼になってさがした。もうつぶては飛んでこないが、お
前へ 次へ
全283ページ中257ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング