合、四合目にがっきと組んで立ちあがった。このとき木俣の身体《からだ》がひらりとおどりでて右足高く鹿毛の横腹に飛ぶよと見るまもあらず、巌のこぶしが早く木俣のえりにかかった。
「えいッ」
 声とともにしし王の足が宙《ちゅう》にひるがえってばったり地上にたおれた。
「いけッ」
 二年生はこれに気を得《え》て突進した。
「くるなッ」
 巌がこうさけんだ、かれは倒れた敵をおさえつけようともせずだまって見ていた、かれは木俣の寝業《ねわざ》をおそれたのである、木俣の十八番は寝業である。
「生意気な」
 木俣は立ちあがってたけりじしのごとく巌を襲《おそ》うた、捕えられては巌は七分の損《そん》である、かれは十七歳、これは十五歳、柔道においても段がちがう、だが柔道や剣術と実戦とは別個のことである。喧嘩になれた巌は進みくる木俣を右に透《すか》しざまに片手の目つぶしを食わした。木俣のあっとひるんだ拍子《ひょうし》に巌は左へ回って向こうずねをけとばした。
「畜生《ちくしょう》」
 木俣は片ひざをついた、がこのときかれの手は早くもポケットに入った、一挺《いっちょう》の角柄《つのえ》の小刀がその手にきらりと輝いた。
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