まっすぐにすう[#「すう」に傍点]と地をすってくるもの、左に旋回《せんかい》するもの、右に旋回するもの、約十種ばかりの性質によって握《にぎ》り方をかえなければならぬ。チビ公は無意識ながらもそれを感じた。
 一生懸命に汗を流してけずり上げた先生のバットはあまり感心したものでなかった。それはあらけずりのいぼだらけで途中にふしがあるものであった。
「なんだこれは」
「すりこぎのようだ」
「犬殺しの棒だ」
「いやだな、おまえが使えよ」
「おれもいやだ」
 少年共はてんでにしりごみをした。さりとてこれを使わねば先生の機嫌が悪い。一同は途方《とほう》に暮れた。
「ぼくのにする」とチビ公はいった。「このバットには先生がぼくらを愛する慈愛《じあい》の魂がこもってる、ぼくはかならずこれでホームランを打ってみせるよ、ぼくが打つんじゃない先生が打つんだ」

         九

 浦和中学と黙々塾《もくもくじゅく》が野球の試合をやるといううわさが町内に伝わったとき人々は冷笑した。
「勝負になりやしないよ」
 実際それは至当《しとう》な評である、浦和中学は師範学校と戦っていつも優勝し、その実力は埼玉県を圧倒
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