ねえ、豆腐屋だと思って尊氏《たかうじ》の畜生ばかにするない」
「千三どうしたのさ、千三」
「お母《かあ》さんですか」
 千三はこういってはじめてわれにかえった。母はじっと千三を見つめた、千三の顔は次第次第にいきいきと輝いた。
「お母さん、ぼくは勉強します」
 母はだまっている。
「ぼくは今日《きょう》先生にぼくのご先祖のことを聞きました。北畠顕家《きたばたけあきいえ》、親房《ちかふさ》……南朝《なんちょう》の忠臣です。その血を受けたぼくはえらくなれない法がありません」
「だけれどもね、このとおり貧乏ではおまえを学校へやることもできずね」
 母はほろりとした。
「貧乏でもかまいません。お母さん、顕家《あきいえ》親房《ちかふさ》はほんのはだか身でもって奥州や伊勢や諸所方々で軍《いくさ》を起こして負けては逃げ、逃げてはまた義兵を集め、一日だって休むひまもなく天子様のために働きましたよ、それにくらべると日に三度ずつご飯を食べているぼくなぞはもったいないと思います。ねえお母さん、ぼくはいま夢を見たんです。先祖の親房《ちかふさ》という人はじつにりっぱな顔でした、ぼくのようにチビではありませんよ、尊
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