馬の音! 法螺《ほら》! 陣太鼓《じんだいこ》! 銅鑼《どら》ぶうぶうどんどん。
 向こうの丘《おか》に現われた敵軍の大勢! 丸二つ引きの旗をへんぽんとひるがえして落日を後ろに丘《おか》の尖端《とっぱな》! ぬっくと立った馬上の大将《たいしょう》はこれ歴史で見た足利尊氏《あしかがたかうじ》である。
 すわ[#「すわ」に傍点]とばかりに正行《まさつら》、正朝《まさとも》、親房《ちかふさ》の面々|屹《きっ》と御輿《みこし》を護《まも》って賊軍をにらんだ、その目は血走り憤怒《ふんぬ》の歯噛《はが》み、毛髪ことごとく逆立《さかだ》って見える。
「やれやれッ逆賊《ぎゃくぞく》をたたき殺せ」と千三は叫んだ。
「これ千三、これ」
 母の声におどろいて目がさめればこれなん正《まさ》しく南柯《なんか》の夢《ゆめ》であった。
「どうしたんだい」
「どうもこうもねえや、畜生《ちくしょう》ッ、足利尊氏《あしかがたかうじ》の畜生ッ」と千三はまだ夢中である。
「喧嘩の夢でも見たのか、足利《あしかが》の高さんと喧嘩したのかえ」
「なんだって畜生ッ、高慢な面《つら》あしやがって、天子様に指でも指してみろ、おれが承知し
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