ん》さすらいなさる。ああおそれ多いことじゃ」
 おじいさんは頭を大地につけてないている、千三は涙が目にたまって玉顔《ぎょくがん》を拝むことができなかった。
「御輿《みこし》の御後に供奉《ぐぶ》する人はあれは北畠親房《きたばたけちかふさ》じゃ」
「えっ?」
 千三は顔をあげた。
 赤地にしきの直垂《ひたたれ》に緋縅《ひおどし》のよろい着て、頭に烏帽子《えぼし》をいただき、弓と矢は従者に持たせ、徒歩《かち》にて御輿《みこし》にひたと供奉《ぐぶ》する三十六、七の男、鼻高く眉《まゆ》秀《ひい》で、目には誠忠の光を湛《たた》え口元には知勇の色を蔵《ぞう》す、威風堂々としてあたりをはらって見える。
 千三は呼吸《いき》もできなかった。
「いずれも皆忠臣の亀鑑《きかん》、真の日本男児じゃ、ああこの人達があればこそ日本は万々歳まで滅びないのだ」
 こうおじいさんがいったかと思うととっとと走っていく、その早いこと百メートル五秒間ぐらいである。
「待ってくださいおじいさん、お紙幣《さつ》になるにはまだ早いから」
 こういったが聞こえない。おじいさんは桜《さくら》の中に消えてしまった。
 にわかにとどろく軍
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