氏《たかうじ》のほうをきっとにらんだ顔は体中忠義の炎《ほのお》が燃えあがっています。ぼくだって忠臣になれます。ぼくだってね、チビでも忠臣になれないことはないでしょう」
「いい夢を見たね」
母は病みほおけた身体《からだ》を起こして仏壇に向かっておじぎした。
千三は生まれかわった。翌日からなにを見ても嬉しい。かれは外を歩きながらそればかりを考えている。
「やあ向こうから八百屋の半公がきたな、あれも忠臣にしてやるんだ。おれの旗持ちぐらいだ、ああぶりき屋の浅公、あれは母親の財布《さいふ》をごまかして活動にばかりいくが、あれもなにかに使えるから忠臣にしてやる、やあ酒屋のブルドッグ、あれは馬のかわりにならないから使ってやらない」
黙々《もくもく》先生はチビ公が急に活気づいたのを見てひとりほくほく喜んでいた。
ある日かれはひとりの学生を先生に紹介《しょうかい》された。それは昨年第一高等学校に入学した安場五郎《やすばごろう》という青年である。黙々塾《もくもくじゅく》をでて高等学校へはいれたのは安場ひとりきりである。先生は安場が好きであった。色が赤黒く顔は七輪に似て、ようかん色になった制服を着て
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