は中をひらいた。むずかしい漢字が並んだばかりでどう読んでいいのかわからない。
「読めません」とかれはいった。
「読める字だけ読め」
「湯《ゆ》……曰《いわく》……日《ひ》……新《しん》……日《ひ》……日《ひ》……新《しん》又《また》日《ひ》新《しん》」
 千三は読める字だけを読んだ、汗がひたいににじんで胸が波のごとくおどる。
「よし、よく読んだ」と先生は微笑して、「その意味はなんだ」
「わかりません」
「考えてみい」
 千三は考えこんだ。
「これは毎日毎日お湯へはいって新しくなれというのでしょう」
「えらい!」
 先生は思わず叫んだ、そうして千三の顔をじっと見つめながら読みくだした。
「湯《とう》の盤《ばん》の銘《めい》に曰《いわ》く、まことに日に新たにせば日々に新たにし又日に新たにせん……こう読むのだ」
「はあ」
「湯はお湯《ゆ》でない、王様の名だ、盤《ばん》はたらいだ、たらいに格言をほりつけたのだ、人間は毎日顔を洗い口をすすいでわが身を新たにするごとく、その心をも毎日毎日洗いきよめて新たな気持ちにならなければならん、とこういうのだ、だがきみの解釈は字句において間違いがあるが大体の意
前へ 次へ
全283ページ中146ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング