かれは一同を広場の片側に整列させた、何人《なんぴと》も彼の命にそむくものはなかった、がしかし人々の悲痛と憤怒《ふんぬ》はどうしてもおさえきることはできなかった。一年を制すれば二年が騒ぎだし、二年を制すればまた一年がくずれる、さすがに四年五年は粛然として涙をのんでいる。
 これらの動揺の波濤《はとう》の中をくぐりぬけて小原は東西にかけずりまわった、かれは帽子をぬいでそれを目標にふりふり叫んだ。その単衣《ひとえ》は汗にびしょぬれていた、かれはひたいから雨のごとく伝わり落ちる汗を手ぬぐいで拭《ふ》き拭きした。
 このさわぎのうちに人々は一層《いっそう》不安の念を起こしたのは三年生の全部が見えないことであった。
「三年がこない」
 口から口に伝わって人々はののしりたてた。
「三年のやつは不埓《ふらち》だ」
 だがこのののしりはすぐ一種の反撥的《はんぱつてき》な喝采とかわった。
「三年は全部結束してつぎの駅の蕨《わらび》で校長を見送るらしい」
「いや赤羽《あかばね》まで校長と同車する計画だ」
 この報知はたしかに人々の胸をうった、とまた飛報がきた。
「カトレット先生が辞表をだしたそうだ、漢文
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