ほしゅ》はいつもよりはやく目をさましそれから十|杯《ぱい》のつるべ水を浴び心身をきよめてから屋根にあがって朝日をおがんだ。これはいかなる厳冬といえども一度も休んだことのないかれの日課である。冷水によって眠気と惰気《だき》とをはらい、さわやかな朝日をおがんで清新な英気を受ける。
だがこの日はいつもより悲しかった、全校生徒の歎願《たんがん》があったにかかわらず久保井校長の転任をひるがえすことができなかった。
今日《きょう》は校長がいよいよ浦和を去る日である。
大急ぎで朝飯をすましかれはすぐ柳の家をたずねた、柳もまた小原をたずねようと家をでかけたところであった。
「いよいよだめだね」と柳はいった、平素温和なかれに似ずこの日はさっと顔を染《そ》めて一抹《いちまつ》悲憤の気が顔にあふれていた。
「しかたがないよ」と小原はいった。ふたりは朝日の光が縦に流れる町を東に向かって歩いた。
「ところでね君」と小原はしばらくあっていった。
「今日《きょう》の見送りだがね、もし生徒が軽々しくさわぎだすようなことがあると、校長先生がぼくらを扇動《せんどう》したと疑られるから、この点だけはどうしてもつつしま
前へ
次へ
全283ページ中119ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 紅緑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング