えらい人だとそれをじまんにしていました、だが今になって考えるとぼくは浦和中で一番劣等なお父さんをもっていたのでした、ねえお父さん……」
「きさまはきさまはきさまは」と猛太はまっかになってそれをはらった。
「ばかやろう! 親不孝者! 大行《たいこう》は細謹《さいきん》をかえりみずということわざを知らんか、阪井猛太は天下の志士だぞ、ばかッ」
父はさっさとでていった。
「お父さん!」
巌は寝台の縁に片手をかけ、幽霊《ゆうれい》のごとくはいだして父のあとを追わんとしたが、火傷《やけど》の痛みに中心を失って思わず寝台の下にドウと落ちた。
「お父さん待って……」
かれは痛みをこらえて起きあがろうとしたが繃帯《ほうたい》にひかれて右の方へ倒れた。
「待ってください……お父さん!」
ふたたび起きあがるとまた左の方へ倒れる。
「おとう……とう……と、と、と……」
声は次第に弱った、涙は泉のごとくわいた、そうして片息になって寝台に手をかけた、もう這《は》いあがる力もない。
病院の外で子供等がうたう声が聞こえる。
「夕やけこやけ、あした天気になあれ」
六
小原捕手《こはら
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