乱ぐいの歯があらわれたかと思うと猛太は目をぱっちりと開いた。父と子の視線が合った。
「おう、目がさめたのか、どうだ、痛むか」
父は起きなおっていった。
「なんでもありません」と巌は冷ややかにいった、父は寝台を降りようとして首につった繃帯を気にしながら巌の寝台へ寄りそうた、そうして心配そうな目を巌の顔に近づけた。
「元気をだせよ、いいか、どこも痛みはしないか、苦しかったら苦しいといえよ」
巌はだまって顔をそむけた、苦しさは首をのこぎりでひかれるより苦しい、しかしそれは火傷《やけど》の痛みではない、父をさげすむ心の深傷《ふかで》である。この世の中に神であり仏であり正義の英雄であると信じていたものが一夜のうちに悪魔《あくま》波旬《はじゅん》となった絶望の苦しみである。
猛太父子の見舞いにとて来客が殺到した、町の人々はいろいろな物品を贈った、猛太は左の腕と左の脚を焼いたので外出はできなかった、かれは寝台の上に座って来客に接した。かれはこう人々にいった。
「せがれが命がけでやってくれたもんだからやっと消しとめましたよ」
それからかれはせがれとふたりで役場の前を通ると火の光が見えたので、窓
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