をたたきこわして中へはいったがその時は重要書類が焼けてしまったあとであったのがなにより残念だといった。人々はますますふたりの勇気に感激した。そうして町会は決議をもってふたりに感謝状を贈ろうという相談があるなどといった。
「うそをつくことはじつにうまい」と巌はおどろいて胸をとどろかした。そうして町の人がなにも知らずに、役場を焼こうとした犯人に感謝状を贈るとはなにごとだろうと思った。
二、三日はすぎた、町のうわさがますます高くなった、だがある日町長が顔色を変えてやってきた。
「みょうなうわさがでてきたよ」とかれはいった。「放火犯人は役場員だというのでな」
「けしからんことだ」と猛太は叫んだ。
「警察の方では、どうもその方にかたむいているらしい。そこでだね、きみになにか心あたりがあるならいってもらいたいんだが」
「なんにもありやしない」と猛太はにがりきっていった。
「きみがいったとき、犯人らしいものの姿を見なかったかね」
「さあ」
猛太は下くちびるをかんでじっと考えこんだ。
「かれらがいうには、阪井が工事の帳簿を焼こうとしたんだとね、こういうもんだから、まさか親子連れで火をつけに歩きまわ
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