》を入れて反身《そりみ》になって歩いた。秀吉になろうと思った時にはおそろしく目をむきだしてさるのごとくに歯を出して歩く。かれの子分のしゃもじは国定忠治《くにさだちゅうじ》や清水《しみず》の次郎長《じろちょう》がすきであった、かれはまき舌でものをいうのがじょうずで、博徒《ばくと》の挨拶《あいさつ》を暗記していた。
「おれはおまえのような下卑《げび》たやつはきらいだ」と巌がしゃもじにいった。
「何が下卑てる?」
「国定忠治だの次郎長だの、博徒じゃないか、尻をまくって外を歩くような下卑たやつはおれの仲間にゃされない」
「じゃどうすればいいんだ」
「おれは秀吉《ひでよし》だからお前は加藤か小西になれよ」
 かれはとうとうしゃもじを加藤清正《かとうきよまさ》にしてしまった。だがこの清正はいたって弱虫でいつも同級生になぐられている。大抵《たいてい》の喧嘩《けんか》は加藤しゃもじの守《かみ》から発生する、しゃもじがなぐられて巌に報告すると巌は復讐《ふくしゅう》してくれるのである。
 いずれの中学校でも一番生意気で横暴なのは三年生である、四年五年は分別が定まり、自重心も生ずるとともに年少者をあわれむ心
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