もできるが、三年はちょうど新兵が二年兵になったように、年少者に対して傲慢《ごうまん》であるとともに年長者に対しても傲慢である。
浦和中学の三年生と二年生はいつも仲が悪かった、年少の悲しさは戦いのあるたびに二年が負けた、巌はいつもそれを憤慨《ふんがい》したがやはりかなわなかった。
「二年の名誉にかかわるぞ」
かれはこういいいいした、かれはいま木の下に立って群童を見おろしているうちに、なにしろ五人分の弁当を食った腹加減《はらかげん》はばかに重く、背中を春日に照らされてとろとろと眠《ねむ》くなった。でかれは木の根に腰をおろして眠った。
「やあ生蕃《せいばん》が眠ってらあ」
学生どもはこういいあった。生蕃とは巌のあだ名である、かれは色黒く目大きく頭の毛がちぢれていた、それからかれはおどろくべき厚みのあるくちびるをもっていた。
うとうととなったかと思うと巌は犬のほえる声を聞いた。はじめは普通の声で、それは学生等の混雑した話し声や足音とともに夢のような調節《ハーモニー》をなしていたが、突然犬の声は憤怒《ふんぬ》と変じた。巌ははっと目を開いた。もうすべての学生が犬の周囲に集まっていた。二年生
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