ずれも道理のように思える。だが多数の人はこういった。
「猛太父子が一命を投げだして消火につとめた処《ところ》をもってみると、役場派が放火したのではなかろう」
 こういって人々は猛太が浦和町のためにめざましい働きをしたことを口をきわめて称讃した、それと同時に巌の功労に対する称讃も八方から起こった。
 半死半生のまま病院へ運ばれたまでは意識していたがその後のことは巌はなんにも知らなかった。かれが病院の一室に目がさめたとき、全身も顔も繃帯《ほうたい》されているのに気がついた。
「目がさめて?」
 母の声が枕元《まくらもと》に聞こえた、同時にやさしい母の目がはっきりと見えた、母の顔はあおざめていた。
「お父《とう》さんは?」と巌がきいた。
「そこにやすんでいらっしゃいます」
 巌は向きなおろうとしたが痛くてたまらないのでやっと首だけを向けた、ちょうど並《なら》んだ隣の寝台に父は繃帯した片手を胸にあてて眠っている、ひげもびんも焼けちぢれてところどころ黒ずんでいるほおは繃帯のあいだからもれて見える。
「お父さんはどんなですか」
「大したこともないのです、手だけが少しひどいようですよ」
「それはよか
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