った。
「はッはッはッ」と猛太はわらった。が巌の足音を聞いてすぐどなった。
「だれだッ」
「ぼくです」
「巌か、何遍《なんべん》床屋《とこや》へゆくんだ、いくら頭をかっても利口にならんぞ」
巌はだまって自分の室にはいり机に向かって本を読みはじめた、かれは本を読むと眠くなるのがくせである、いく時間机にもたれて眠ったかわからないが、がらがらと戸をあける音に眼をさますと、客はすでに去り、母も床についたらしい。
「なんだろう」
こう思ったときかれは父が外へでる姿を見た。
「どこへゆくんだろう」
俄然《がぜん》としてかれの頭に浮かんだのは、チビ公の伯父覚平が父猛太をうかがって復讐《ふくしゅう》せんとしていることである、今日《きょう》も役場をまちがって税務署へ闖入《ちんにゅう》したところをチビ公がきてつれていったそうだ、へびのごとく執念深《しゅうねんぶか》いやつだから、いつどんなところから飛びだして暴行を加えるかもしれない。
「父を保護しなきゃならん」
巌は立ちあがった、かれは細身の刀をしこんだ黒塗りのステッキ(父が昔愛用したもの)を小脇にかかえて父のあとをつけた。二十日《はつか》あまりの
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