せて、児《じ》を産みてよりは、世の常の婦人よりも一層《ひとしほ》女々《めゝ》しうなりしぞかし。左《さ》しも気遣《きづか》ひたりし身体には障《さは》りもなくて、神戸|直行《ちよくかう》と聞きたる汽車の、俄《には》かに静岡に停車する事となりしかば、其夜は片岡《かたをか》氏《し》の家族と共に、停車場《ステーシヨン》近《ちか》き旅宿に投じぬ。宿泊帳には故意《わざ》と偽名を書《しよ》したれば、片岡《かたをか》氏《し》も妾《せふ》をば景山英《かげやまひで》とは気付《きづ》かざりしならん。
五 一大事
翌日岡山に到着して、なつかしき母上を見舞ひしに、危篤《きとく》なりし病気の、やう/\怠《おこた》りたりと聞くぞ嬉しき。久《ひさ》し振《ぶ》りの妾《せふ》が帰郷を聞《きゝ》て、親戚ども打寄《うちよ》りしが、母上よりは却《かへつ》て妾《せふ》の顔色の常ならぬに驚きて、何様《なにさま》尋常《じんじやう》にてはあらぬらし、医師を迎へよと口々に勧《すゝ》め呉れぬ。さては一大事、医師の診察によりて、分娩《ぶんべん》の事|発覚《はつかく》せば、妾《せふ》は兎も角、折角|怠《おこた》りたる母上の病気の、又はそれが為
前へ
次へ
全11ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング