痛起りて、それと同時に大雨《たいう》篠《しの》を乱《みだ》しかけ、鳴神《なるかみ》おどろ/\しく、はためき渡りたる其《その》刹那《せつな》に、児《じ》の初声《うぶごゑ》は挙《あが》りて、左《さ》しも盆《ぼん》を覆《くつがへ》さんばかりの大雨《たいう》も忽《たちま》ちにして霽《は》れ上《あが》りぬ。後《あと》にて書生の語る所によれば、其日《そのひ》雨の降りしきれる時、世に云ふ龍《たつ》まきなるものありて、その蛇《へび》の如き細き長き物の天上するを見たりきといふ。妾《せふ》は児《じ》の重《かさ》ね/″\龍《りよう》に縁《えん》あるを奇《き》として、それに因《ちな》める名をば命《つ》けつ、生《お》ひ先きの幸《さち》多かれと祷《いの》れるなりき。
三 児《じ》の入籍
 児《じ》を分娩《ぶんべん》すると同時に、又も一《いつ》の苦悶は出で来《きた》りぬ。そは重井《おもゐ》と公然の夫婦ならねば、児《じ》の籍をば如何《いか》にせんとの事なりき。幸《さいはひ》なるかな、妾《せふ》の姙娠中《にんしんちゆう》屡※[#二の字点、1−2−22]《しば/\》診察を頼みし医師は重井《おもゐ》と同郷の人にして、日頃《
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