ら》胎児の健全を祈り、自《みづ》から堅く外出を戒《いまし》めし程に、景山《かげやま》は今|何処《いづく》に居るぞ、一時を驚動せし彼《か》の女《ぢよ》の所在こそ聞《きか》まほしけれなど、新聞紙上にさへ謳《うた》はるゝに至りぬ。
二 分娩《ぶんべん》、奇夢《きむ》
その間の苦悶そも幾何《いくばく》なりしぞや。面白からぬ月日を重ねて翌廿三年三月上旬一男子を挙ぐ。名はいはざるべし、悔《くい》ある堕落の化身《けしん》を母として、明《あか》らさまに世の耳目《じもく》を惹《ひ》かせんは、子の行末の為め、決して好《よ》き事にはあらざるべきを思うてなり。唯《た》だその命名につきて一場《いちぢやう》の奇談あり、迷信の謗《そし》り免《まぬ》かれずとも、事実なれば記《しる》しおくべし。其子《そのこ》の身に宿りしより常に殺気《さつき》を帯《お》べる夢のみ多く、或時は深山《しんざん》に迷ひ込みて数千《すせん》の狼《おほかみ》に囲まれ、一生懸命の勇を鼓《なら》して、其《その》首領《しゆりやう》なる老狼《らうらう》を引倒《ひきたふ》し、上顎《うはあご》と下顎《したあご》に手をかけて、口より身体までを両断せしに、他《
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