かかる中にも葉石は、時々看守の目を偸《ぬす》みて、紙盤《しばん》にその意思を書き付け、これを妾に送り来りて妾に冷淡の挙動あるを詰《なじ》るを例とせり。([#ここから割り注]紙製石盤は公判所より許されて被告人一同に差し入れられこれに意志を認めて公判廷に持参しかくて弁論の材料となせるなり[#ここで割り注終わり])さりながら妾は長崎にて決心せし以来再び同志の言を信ぜず、御身《おんみ》は愛を二、三にも四、五にもする偽君子《ぎくんし》なり、ここに如何《いかん》ぞ純潔の愛を玩《もてあそ》ばしめんやと、いつも冷淡に回答しやりたりき。意外なりしは重井より心情を籠《こ》めし書状を送り来りし事なり。東京在住中、妾《しょう》は数※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》その邸《てい》に行きて、富井女史救い出しの件につき、旅費補助の事まで頼みし事ありしが、当時氏は女のさし出がましきを厭《いと》い将《は》た妾らが国事に奔走するを忌《い》むの風《ふう》ありしに、思いきや今その真心に妾を思うこと切《せつ》なるよしを言い越されんとは。妾は更に合点《がてん》行かず、ただ女珍しの好奇心に出でたるものと大方に見過して、いつ
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