を聳《そび》やかして、挙動穏やかならずと見えしが、果して十五ページ上段七行目の「右議決の旨《むね》を長崎滞在の先発者|田代季吉《たしろすえきち》云々」の処に至り、突然第一列にある、磯山清兵衛氏に飛びかかり、一喝《いっかつ》して首筋を掴《つか》みたる様子にて、場《じょう》の内外|一方《ひとかた》ならず騒擾《そうじょう》し、表門警護の看守巡査は、いずれも抜剣《ばっけん》にて非常を戒《いまし》めしほどなりき。とかくする内|看守《かんしゅ》、押丁《おうてい》ら打ち寄りて、漸く氏家を磯山より引き離したり。この時氏家は何か申し立てんとせしも、裁判長は看守押丁らに命じて、氏家を退廷せしめ、裁判長もまたこの事柄につき、相談すべき事ありとて一先《ひとま》ず廷を閉じ、午後に至りて更に開廷せり。爾来《じらい》公判は引き続きて開かれしかど、最初の日の如く六十三名打ち揃《そろ》いたる事はなく、大抵一組とこれに添いたる看守とのみ出廷したり。しかもなお傍聴者は毎日午前三時頃より正門に詰めかけ、三、四日も通い来りて漸く傍聴席に入る事を得たる有様にて、われわれの通路は常に人の山を築けるなりき。
三 重井の情書
前へ
次へ
全171ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング