愛の冷却せる者に向かいて、強《し》いて旧事を発表し、相互の不利益を醸《かも》すが如き、愚をばなさざりしならんに。さりながら妾は実に、同志の無情を嘆ぜしなり、特《こと》に葉石の無情を怨《うら》みしなり、生きて再び恋愛の奴《やっこ》となり、人の手にて無理に作れる運命に甘んじ順《したが》うよりは、むしろ潔《いさぎよ》く、自由民権の犠牲たれと決心して、かくも彼の反省を求めしなるに、同志の手には落ちずして、かえって警察官の手に入らんとは、かえすがえすも面伏《おもぶ》せなる業《わざ》なりけり。いでや公判開廷の日には、病《やまい》と称して、出廷を避くべきかなど、種々に心を苦しめしかど、その甲斐《かい》遂《つい》にあらざりき。
[#改ページ]

   第六 公判


 一 護送の途上

 いよいよその日ともなれば、また三年振りにて、娑婆《しゃば》の空気に触るる事の嬉しく、かつは郷里より、親戚|知己《ちき》の来り会して懐《なつ》かしき両親の消息を齎《もたら》すこともやと、これを楽しみに看守に護《まも》られ、腕車《わんしゃ》に乗りて、監獄の門を出づれば、署の門前より、江戸堀《えどぼり》公判廷に至るの間はあ
前へ 次へ
全171ページ中90ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福田 英子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング