の感情に駆られて、葉石に宛《あ》てたりし永別の書が、端《はし》なくも世に発表せられしことを思いてわれながら面目なく、また葉石に対し何となく気の毒なる情も起り、葉石にしてもしこの書を見ば、定めて良心に恥じ入りたらん、妾の軽率を憤《いきどお》りもしたらん、妾は余りに一徹なりき、彼が皎潔《こうけつ》の愛を汚《けが》し、神聖なる恋を蹂躙《じゅうりん》せしをば、如何《いか》にしても黙止《もくし》しがたく、もはや一週間内にて、死する身なれば、この胸中に思うだけをば、遺憾《いかん》なく言い遺《のこ》し置かんとの覚悟にて、かの書翰《しょかん》は認《したた》めしなれば、義気《ぎき》ある人、涙《なんだ》ある人もしこれを読まば、必ず一掬《いっきく》同情の涙に咽《むせ》ぶべきなれど、葉石はそもこれを何とか見るらん、思えば法廷にて彼に面会することの気の毒さよ。彼はこの書翰のために、有志の面目をも損ずるなるべし、威厳をも傷《そこな》うなるべし、さても気の毒の至りなるかな。妾とても再び彼ら同志に逢《あ》わざるべきを、予想したればこそ、かく夫婦の契約あることを発表せしなれ、今日《こんにち》の境遇あるを予知せば、もはや
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